今回は、労働保険徴収法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)に関する記事です。
労働保険徴収法は、その名のとおり労働保険料の徴収に関する手続きなどを定めた法律であり、カンタンに言えば、労働保険徴収の実務的なマニュアルのような内容です。
そのため、勉強していてもイメージが湧きにくく、苦手意識を感じる受験生も少なくありません。
しかし、労働保険徴収法は次のような理由で、得点源にしやすい科目でもあります。
- 手続き規定を定めた法律で複雑な問題を作りにくい
- 理解して覚えていれば答えられる問題がほとんど
- 法律の改正が少なくて過去問の焼き直しが多い
- 他の試験科目と比較して圧倒的に学習範囲が狭い
詳細は以下の本文で説明しますので、ぜひ、この記事を読んで、あなたも労働保険徴収法を得意科目にして欲しいと思います。
社会保険労務士(社労士)試験の労働保険徴収法の概要
そもそも、労働保険とは何でしょうか?
労働保険とは労働者の雇用や生活を守るために作られた国の制度で、次の労災保険と雇用保険を合わせたものです。
- 労災保険の目的は業務上の怪我や病気で働けなくなった人の生活を守って補償すること
- 雇用保険の目的は失業や育児、介護などで働けなくなった労働者に対して支援すること
労災保険と雇用保険は別の制度ですから、以前はそれぞれ異なる方法で徴収事務が行われていました。
しかし、保健制度の適用範囲の拡大で事業主に大きな負担が加わっていたため、徴収事務の簡素化と効率化を図ることを目的として、昭和44年(1969年)に労働保険徴収法が制定されました。
労働保険料徴収法は、正式には「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」といいます。
この労働保険徴収法は、労災保険法と雇用保険法のそれぞれから「適用事務・保険料徴収事務」の部分を抜き出し、1つにまとめた法律といえます。
実際に労働保険徴収法に基づいて保険料の徴収が行われますし、実務性が高くて業務も多岐に渡りますので、社会保険労務士(社労士)の試験の中でも労働保険徴収法は重要な分野です。
受験生にとって馴染みがなくて苦手意識を持つ方が多いのですが、「手続き規定を定めている」⇒「法律の改正が少ない」と考えられますので、一度マスターしてしまえば労働保険徴収法を得点源にするのは難しくありません。
なお、社会保険労務士(社労士)の試験では、労働保険徴収法は労災保険法や雇用保険法とセットで出題されています。
※社会保険労務士(社労士)試験の労災保険法については、以下のページをチェック!
※社会保険労務士(社労士)の試験科目の雇用保険法についてはこちらのページをチェック!
社会保険労務士(社労士)試験 労働保険徴収法の内容は?
ここでは、社会保険労務士(社労士)の試験科目の労働保険徴収法がどのような内容の法律なのか見ていきましょう。
- 総則・定義・適用事業(労働保険徴収法の趣旨や定義などが書かれている)
- 保険関係の成立及び消滅(労災保険や雇用保険の保険関係の成立や消滅に関する内容。出題頻度が高い)
- 労働保険料の納付の手続等(労働保険料の計算方法や納付方法について書かれている。出題頻度が高い)
- 労働保険事務組合(中小事業主が行うべき労働保険事務処理の負担軽減を目的として設立される団体に関する内容。出題頻度が高い)
- その他(不服申し立て、時効、罰則など)
以下、概要を見ていきます。
総則・定義・適用事業
目的
目的条文(第1条)には、以下のとおり記されています。
この法律は、労働保険の事業の効率的な運営を図るため、労働保険の保険関係の成立及び消滅、労働保険料の納付の手続、労働保険事務組合等に関し必要な事項を定めるものとする。
賃金
賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として、事業主が労働者に支払うもののことです。※ただし、通貨以外のもので支払われるもので、かつ、厚生労働省令で定める範囲外のものは除きます。
特に、「賃金に該当するもの」「賃金に該当しないもの」の具体例を押さえることが必要です。
保険年度
保険年度とは、4月1日から翌年の3月31日のことで、この期間で保険のとりまとめを行います。
事務の所管
厚生労働大臣の権限の一部は都道府県労働局長へ委任することができます。
適用の単位
労働保険徴収法は、事業を単位として適用されます(原則)。
強制適用事業と暫定適用事業
原則として労働者を一人でも使用する事業は強制適用事業となります。
労災保険と雇用保険に、例外的に暫定任意適用事業となる事業の定義が定められていますが、それらは細かい点で異なっている部分があるので注意が必要です。
一元適用事業と二元適用事業
労災保険と雇用保険の保険関係が同時に一体となって成立・消滅する事業のことを「一元適用事業」といいます。多くの事業が一元適用事業に該当します。
両保険の保険関係が別のものとして取り扱われるのが二元適用事業です。二元適用事業に該当するもの(定義)を覚えておく必要があります。
継続事業と有期事業
有期事業とは、事業の期間が予定されている事業のことです。
また、継続事業とは、有期事業以外のことで、多くの事業が継続事業に当たります。
保険関係の成立及び消滅
保険関係の成立・消滅
保険関係の成立・消滅は、「強制適用事業か暫定任意適用事業か」「一元適用事業か二元適用事業か」「継続事業か有期事業か」によって手続き等が変わります。
保険関係の一括
保険関係の一括とは、原則として事業単位に処理すべき保険関係において、2以上の保険関係を一括して処理することです。保険関係の一括には、次の3種類があります。
- 有期事業の一括
- 請負事業の一括
- 継続事業の一括
労働保険料の納付と手続き等
労働保険料の種類
労働保険料の種類は以下のとおりです。
- 一般保険料:一般労働者の通常の保険料(労災・雇用)
- 特別加入保険料:中小事業主や一人親方などが労災に特別加入する際の保険料(第1種~第3種まである)
- 印紙保険料:雇用保険の日雇雇用被保険者の保険料
- 特例納付保険料:雇用保険の加入手続きをしていなかった事業主に加算して支払させる保険料
一般保険料の額
一般保険料の額は、原則として以下のように計算します。
- 一般保険料の額 = 賃金総額 × 一般保険料率
納付手続き(概算保険料と確定保険料)
継続事業における労働保険料の申告・納付手続きの概要は以下のとおりです。
- 保険年度が始まって早い時期に概算保険料を支払う
- 保険年度終了後、確定保険料を申告して精算を行う(納付または還付)
社会保険労務士(社労士)試験 労働保険徴収法の出題傾向は?
例年通りであれば、社会保険労務士(社労士)の試験において労働保険徴収法は択一式試験のみです。
また、前述のとおり、労働保険徴収法は、労災保険法や雇用保険法の一部として出題されています。
具体的には、択一式試験の「労働者災害補償保険法」及び「雇用保険法」は、それぞれの10問出題されますが、そのうち各3問が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」からの出題となります(労働保険徴収法の出題は合計6問となります)。
社会保険労務士(社労士)の選択式試験の対策は不要ですので、労働保険徴収法には長い勉強時間を費やさなくても良いでしょう。
しかし、労働保険徴収法は計算の概念が入るため、いつまで経っても克服できずに苦手意識を持つ受験生がたくさんいます。
そのため、労働保険徴収法でしっかりと得点して社会保険労務士(社労士)の試験に合格するには、出題傾向や重要項目の把握が大事ですよ。
労働保険徴収法では、次の2つの項目が頻出しやすい傾向があります。
- 保険関係の成立及び消滅
- 労働保険料の納付の手続
覚えるべき数字や行政機関の名称が多く、正確な記憶が求められるところが厄介なポイントです。
「誰が?」「何%?」という部分を突破して記憶に定着させれば、労働保険徴収法を社会保険労務士(社労士)の試験の中でも得点源にできるでしょう。
労働保険料の徴収という事務手続きに関する法律は面白みに欠けますが、労働保険料の徴収システムの規定を取り扱っているに過ぎません。
保険関係の成立及び消滅や労働保険料の納付の手続など頻出する項目を中心に学習して、科目最低点のクリアに繋げてみてください。
社会保険労務士(社労士)の試験科目!労働保険徴収法の勉強法はこれだ!
社会保険労務士(社労士)の試験科目の中でも、労働保険徴収法は馴染みのない分野です。
しかし、次の4つの理由で労働保険徴収法は得点源にしやすいと考えられています。
- 手続き規定を定めた法律で複雑な問題を作りにくい
- 理解して覚えていれば答えられる問題がほとんど
- 法律の改正が少なくて過去問の焼き直しが多い
- 他の試験科目と比較して圧倒的に学習範囲が狭い
社会保険労務士(社労士)の受験生の立場に立ってみると、労働保険徴収法は費用対効果の高い科目ですね。
正しい方法で勉強していれば、労働保険徴収法を得意分野にすることはできます。
この記事では社会保険労務士(社労士)の試験科目の労働保険徴収法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)の勉強法を紹介していますので、何をすれば良いのか迷っている方は参考にしてみましょう。
労災保険法と雇用保険法を学習した後に取り組む
最初から労働保険徴収法を勉強して社会保険労務士(社労士)の試験対策をすると、「何が何だかわからない」という状態に陥ります。
そこで、最初に労災保険法と雇用保険法を学習した後に労働保険徴収法の勉強に取り組んでみましょう。
労働保険徴収法は、労災保険と雇用保険の手続と保険料の規定について定めた法律です。
この2つの分野が社会保険労務士(社労士)の試験で不出来だったとしても、労働保険徴収法が補う科目になり得ます。
それに加えて、労災保険法と雇用保険法の内容が少しでも頭に入っていれば、労働保険徴収法もスっと記憶に残って勉強効率が良くなるのです。
社会保険労務士(社労士)の通信講座は、今までのノウハウで試験対策の学習順序が考え抜かれています。
一方で独学だと何から始めれば良いのか迷いやすいため、「労災保険法と雇用保険法の学習」⇒「労働保険徴収法の勉強」という順番を意識して社会保険労務士(社労士)の試験対策を行ってみてください。
過去問を繰り返し解く
他の社会保険労務士(社労士)の試験科目にも同じことが言えますが、労働保険徴収法は特に過去問のリピート出題率の高い分野です。
再出題率の高さは受験戦略上の大きなプラス要素で、過去問をひたすら解く勉強法で労働保険徴収法を得点源にできます。
具体的に労働保険徴収法に関する社会保険労務士(社労士)の過去問をいくつか見ていきましょう。
・一元適用事業であって労働保険事務組合に事務処理を委託しないもののうち雇用保険に係る保険関係のみが成立する事業は、保険関係成立届を所轄公共職業安定所長に提出することとなっている。(正しい)
・建設の事業に係る事業主は、労災保険に係る保険関係が成立するに至ったときは労災保険関係成立票を見やすい場所に掲げなければならないが、当該事業を一時的に休止するときは、当該労災保険関係成立票を見やすい場所から外さなければならない。(間違い)
・複数年にわたる建設の有期事業の事業主が納付すべき概算保険料の額は、その事業の当該保険関係に係る全期間に使用するすべての労働者に係る賃金総額の見込額に、当該事業についての一般保険料率を乗じて算定した額となる。(正しい)
最初に参考書やテキストで知識をインプットし、過去問や問題集を解いて理解できる部分と間違った部分を把握するのがポイントですね。
最低でも過去5年分、できれば過去10年分の社会保険労務士(社労士)の過去問を繰り返し解く勉強法に取り組みましょう。
計算問題を攻略する
社会保険労務士(社労士)の試験科目の労働保険徴収法は、計算問題が出てくることがあります。
最初は難解な箇所に拘らずに基本的な制度の概要を中心にインプットするのが大事ですが、計算問題の対策も忘れてはいけません。
ここでは、労働保険徴収法の計算問題を攻略するに当たって押さえておきたいコツをいくつか挙げていきます。
- 使っている教材に計算例や計算の手順が掲載されているか確認する
- テキストに掲載されている計算式や数字、具体例を元にして実際に手を動かして計算する
- 計算式の流れを自分で追いかけながら再現する(頭の中だけで計算しない)
手を動かしての計算は地道な訓練ですが、コツコツと取り組むことで社会保険労務士(社労士)の試験合格に一歩近づくでしょう。
まとめ
社会保険労務士(社労士)の試験科目の労働保険徴収法についておわかり頂けましたか?
労働保険の保険料の徴収等に関する法律は、社会保険労務士(社労士)の試験の中でも大事な分野です。
「保険関係の成立及び消滅」や「労働保険料の納付の手続」を中心に、出題傾向を把握していればしっかりと得点できます。
過去問をひたすら解いたり計算問題を手で動かして取り組んでみたりといった勉強法で、社会保険労務士(社労士)の試験科目の労働保険徴収法を対策してみてください。