社会保険労務士(社労士)の資格保有者の専門分野は、下記のような労働および社会保険に関する諸法令と定義されています。
- 労働分野:「労働基準法」「労働契約法」「労働安全衛生法」
- 社会保険分野:「雇用保険法」「健康保険法」「国民年金法」「厚生年金保険法」
これらにまつわる書類の作成や提出代行、コンサルティング業務が社会保険労務士(社労士)の代表的な仕事内容ですね。
※社会保険労務士(社労士)の詳しい仕事内容については下記のページでも解説しています。
社会保険労務士(社労士)が行う仕事の中でも、1号業務と2号業務は資格を持つ人しかできない独占業務です。
「弁護士」「司法書士」「税理士」など他の士業と同じように、社会保険労務士(社労士)の独占業務もこの資格を持たない人が報酬を得て行ってはいけません。
資格保有者しかできない独占業務があるのは、社会保険労務士(社労士)の大きな強みです。
以下では、社会保険労務士法で定められている独占業務の1号業務と2号業務について詳しく解説していきます。
社会保険労務士(社労士)にしかできない独占業務についてまとめてみた
労働社会保険に関わる書類の作成や提出を行う1号業務
社会保険労務士(社労士)の1号業務は、労働社会保険に関わる書類の作成や提出を労働社会保険諸法令に基づいて行う業務です。
具体的にどのような書類を行政機関に提出するのか、代表的なものを見ていきましょう。
- 申請書
- 届出書
- 報告書
- 審査請求書
- 異議申立書
- 再審査請求書
- その他の書類(電磁的記録を含む)
これらの書類を作成するのはもちろんのこと、書類の提出代行や事務代理も社会保険労務士(社労士)の1号業務の中に含まれています。
例えば、会社では人員を雇うと、雇用保険や社会保険の手続きを行わないといけません。
しかし、中小企業や小さな会社では、「人手が足りない」「知識を持つ者がいない」など様々な問題が出てきます。
外部の誰かに手続きを依頼したいと思っていても、中々上手くいきません。
そこで登場するのが国家資格の社会保険労務士(社労士)で、労働社会保険関連の手続きを生業として報酬をもらいます。
以下では、社会保険労務士(社労士)の独占業務である1号業務の手続きの流れを大まかにまとめてみました。
- 顧客である企業から要請を受ける
- 経営者の代理として雇用や支店の新設を始めとする届出書を作成する
- 行政機関に書類の提出を代行する
労働者社会保険諸法令に基づく書類の作成や提出代行業務、行政機関への提出から主張を行う事務代理を報酬をもらってできるのは社会保険労務士(社労士)だけです。
会社にとって欠かせない人材に関する業務ですので、社会保険労務士(社労士)の1号業務がいかに大事なのかおわかり頂けるのではないでしょうか。
労働社会保険諸法令に従う帳簿書類を作成する2号業務
何年も会社を経営していると、帳簿書類や請求書がたまってきます。
この労働社会保険諸法令に従う帳簿書類の作成は、社会保険労務士(社労士)の独占業務です。
帳簿書類の作成は、社会保険労務士(社労士)の2号業務に分類されますね。
企業は就業規則や賃金規程、賃金台帳、労働者名簿などの帳簿を備えるのが義務付けられていますが、小さな会社や開業したばかりの会社は一気に作成するのが難しいのが現状です。
法改正に伴って内容の改定も必要になりますので、法律に関して詳しい人が欠かせません。
社会保険労務士(社労士)は各労働法や社会保険法、財務諸表に関連するものなど、法律上で必要な書類の作成を行えます。
具体的に社会保険労務士(社労士)の2号業務でどのような労使協定の事務手続きを代行するのかいくつか挙げてみました。
- 三六協定(時間外・休日労働協定)
- 休憩時間の一斉付与除外協定
- 1年単位の変形労働時間制の労使協定
- フレックスタイム制の労使協定
- 貯蓄金管理に関する労使協定
- 賃金控除に関する労使協定
- 事業場外みなし労働時間制に関する労使協定
- 専門業務型裁量労働制に関する労使協定
- 企画業務型裁量労働制の労使委員会の決議等
- 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
- 育児休業の適用除外に関する労使協定
- 介護休業の適用除外に関する労使協定
就業規則の作成や変更の業務は無資格者はもちろんのこと、公認会計士や税理士など他の士業も行ってはいけません。
社会保険労務士(社労士)に許された独占業務ですので、この国家資格は非常に将来性があると判断できます。
「ブラック企業」というレッテルを貼られないようにホワイトな労務管理を目指すには、社会保険労務士(社労士)の力が必要ですので、今後も独占業務の需要はなくならないと考えてOKです。
社会保険労務士(社労士)の3号業務は独占業務ではない!
社会保険労務士(社労士)は上記の1号業務と2号業務に加えて、3号業務と呼ばれるものがあります。
3号業務は社会保険労務士(社労士)の独占業務ではありませんが、忘れてはいけない仕事内容の一つです。
社会保険労務士(社労士)の3号業務は、社会保険労務士法2条で次のように定義されています。
- 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく
- 社会保険に関する事項について依頼者の相談に応じ、合わせて指導も行う
簡単に説明すると、人事労務に関する相談や指導、年金の実務に関するアドバイスなどのコンサルティング業務のことですね。
例えば、顧問契約を結んでいる企業とは、契約書の中で記載されていなくても日常的に発生する軽微な労務相談は契約の中に含まれています。
日常的に発生する相談や指導に加えて、本格的なコンサルティングも社会保険労務士(社労士)の3号業務です。
※社労士のコンサルティング業務(第3号業務)については、下記の記事も参考にしてください。
社会保険労務士(社労士)の独占業務に対する報酬
社会保険労務士(社労士)は企業に対して独占業務を行い、その見返りに一定の報酬をもらいます。
社会保険労務士(社労士)の独占業務の報酬がどのくらいなのか、業務別の相場を見ていきましょう。
- 健康保険・厚生年金保険適用:80,000円~130,000円
- 労災保険・雇用保険適用:50,000円~100,000円
- 保険料の算定・申告:25,000円~70,000円
- 就業規則作成:150,000円~300,000円
- 就業規則変更:30,000円~
- 諸規定の作成:50,000円~100,000円
- 諸規定の変更:30,000円~
- 助成金の申請:成功報酬として15%程度
- 給与計算:10,000円~40,000円
- 労働保険の年度更新:30,000円~70,000円
以前までは全国社会保険労務士会連合会が定める報酬基準をもとにして、各都道府県の社会保険労務士会が独占業務を中心に報酬の基準額を定めていました。
しかし、現在では社会保険労務士法の改正で規定部分が削除されたため、報酬額は事務所で自由に設定できます。
つまり、社会保険労務士事務所によって独占業務の報酬額に違いが生じているわけです。
※社会保険労務士(社労士)の報酬の相場については、こちらのページもご覧になってください。
社会保険労務士(社労士)が企業と結ぶ契約の種類
社会保険労務士(社労士)が企業と結ぶ契約は、次の3種類に大きくわけられます。
- 顧問契約:毎月の給与に支払い時における社会保険の計算など、1ヵ月単位で報酬をもらって契約する
- スポット契約:自社で行いきれない各種届出を依頼する際の単発の仕事
- コンサルティング契約:人事や労務に関するコンサルティングに対して結ぶ
これらの全てが社会保険労務士(社労士)の独占業務ではありません。
上記の項目でも説明しましたが、コンサルティング業務に関しては社会保険労務士(社労士)の資格を持たない方でも行えます。
もし社会保険労務士(社労士)の資格を活かして独立開業する予定の方は、顧問契約を獲得する努力をしましょう。
単発の仕事を行うスポット契約とは違い、社会保険労務士(社労士)の顧問契約では毎月一定の収入があります。
顧問契約を結ぶ企業が多ければ多いほど、収入や年収が安定するわけです。
依頼する企業側の視点に立ち、社会保険労務士(社労士)と顧問契約を結ぶメリットをいくつか挙げてみました。
- 人材やお金に関する悩みが出た時にすぐに相談できる(個別相談を請け負っている社労士は限られている)
- 労働保険や社会保険は社員に直接関わるものなので、社員の安心感や信頼感が向上する
- 労働や社会保険の法令はどんどん移り変わるため、会社の運営を円滑に進めることができる
- 自社で使えそうな助成金の最新情報を提供してくれる(情報に対してアンテナを張ることができる)
- 経営者は人事労務手続や給与計算に時間をかけずに済むので、本業に専念できる
企業にとって顧問契約には多数のメリットがありますので、社会保険労務士(社労士)の需要がなくなることはありません。
特定社会保険労務士とは?どのような独占業務ができる?
社会保険労務士(社労士)の独占業務は上記の項目で説明した1号業務と2号業務で、社会保険労務士法第2条第1項第1号から第3号に規定されています。
一般的な社会保険労務士(社労士)とは違い、特定社会保険労務士になると紛争解決手続代理業務も可能です。
紛争解決手続代理業務は、特定社会保険労務士にしかできない独占業務と定められていますよ。
特定社会保険労務士に与えられた紛争解決手続代理業務が一体何を指しているのか見ていきましょう。
- 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理業務を行う(紛争価額が60万円を超えるケースでは弁護士との共同受任が必要)
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づいて、都道府県労働局が行うあっせんの手続きの代理業務を行う
- 男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、パートタイム労働法に基づいて、都道府県労働局が行う調停の手続きの代理を行う
- 都道府県労働員会における個別労働関係紛争のあっせんの手続きの代理を行う
- 上記の代理業務の中で、紛争相手方との和解交渉や和解契約の締結代理を行う
少々難しい内容なのですが、簡単に説明すると「不当解雇」「賃金未払い」「セクハラ」「パワハラ」といった個別労働関係紛争において、裁判を行わずにトラブルを解決するあっせん手続きが特定社会保険労務士にはできます。
以前までは賃金未払いやセクハラなど従業員と雇用主との間で生じたトラブルは、当事者間で解決するか裁判に持ち込むしか方法がありませんでした。
時間と資金の両方が必要で大変だったため、今は話し合いで解決を図れるようにADR(裁判外紛争解決手続)と呼ばれる制度が設けられています。
ADR(裁判外紛争解決手続)は第三者が間に入って解決方法をあっせんすることで、その独占業務ができる有資格者が特定社会保険労務士です。
社会保険労務士(社労士)の業務にプラスして紛争解決手続代理業務を行いたい方は、特定社会保険労務士を目指してみてください。
特定社会保険労務士になるには?
独占業務の紛争解決手続代理業務を行うには、社会保険労務士(社労士)の試験に合格して資格登録をするだけではなく、特定社会保険労務士にならないといけません。
特定社会保険労務士になるには、紛争解決手続代理業務試験と厚生労働大臣が定める研修を受ける必要があります。
特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)の合格率は60%~70%程度ですので、本試験よりも遥かに簡単ですね。
厚生労働大臣が定める研修は、次の3つのカリキュラムにわけられています。
- 30.5時間の講義のビデオを見る(特定社会保険労務士の果たす役割と職責・専門家の責任と倫理・賃金体系と労働条件の変更・個別労働関係紛争解決制度など)
- 18時間のグループ研修に参加する(労働紛争の事例について主張の申請書やその反論の答弁書を10人程度のグループでまとめる)
- 15時間のゼミナールに参加する(50人程度のクラスで労働事件に詳しい研修を受けた弁護士と対話しながら講義を進める)
社会保険労務士(社労士)としての業務の幅が大きく広がりますので、更なるステップアップを目指している方は特定社会保険労務士になる試験や研修を受けましょう。
※特定社会保険労務士については、下記の記事も参考にしてください。
まとめ
以上のように、社会保険労務士(社労士)の仕事内容の中でも資格保有者しかできない独占業務についてまとめました。
社会保険労務士(社労士)の独占業務は、次の1号業務と2号業務です。
- 1号業務:行政官庁に提出する届出書や申請書の作成や提出代理
- 2号業務:労働基準法で義務付けられている帳簿書類の作成
これらの独占業務は社会保険労務士でない人や他の士業が行うことは禁止されていますので、十分に注意してください。