今回は、健康保険法に関する記事です。
社会保険労務士(社労士)の試験科目の中でも、健康保険法は私たちの生活にとって馴染みの深いテーマです。
健康保険法とは、保険に加入している人に対して疫病や負傷、出産や死亡に関する必要な保険給付を行う法律を指しています。
しかし、社会保険労務士(社労士)としての健康保険法は意外と厄介な試験科目で、その理由は以下のとおりです。
- 保険給付の種類が多く、さらにその他の内容も多い
- 度重なる法改正により制度が複雑化している
- 広範な分野全体から満遍なく出題される
- 法律だけではなく、難易度の高い問題が通達からも出題される
普段の生活では聞き慣れない専門用語が多いのも、健康保険法を苦手とする受験生が多い理由ですね。
それでも、きちんと対策を練っていれば健康保険法を得意分野にして、社会保険労務士(社労士)の試験で得点を稼ぐことはできます。
この記事では、社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法について詳しくまとめましたので、ぜひ、この記事を読んで、あなたも健康保険法を得意科目にして欲しいと思います。
社会保険労務士(社労士)試験 健康保険法の概要
社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法は、古くからある社会保障の一つです。
この健康保険法が一体どのような制度なのか、内容を簡単に解説していきます。
- 企業などに勤めている人が加入する公的な医療保険制度
- 病気や怪我で働くことができなくなった際に備えるための制度
- 病気や怪我による治療、出産や死亡の事態が発生した場合に保険給付を受けられる
- 健康保険は加入している本人に加えて扶養されている家族も被扶養者として保険給付を受けられる
健康保険の被保険者が業務以外の事由で病気や怪我をした際に、保険が給付されて治療を受けられる仕組みです。
病気や怪我に加えて、健康保険法は出産や死亡の事態が発生した時にも適用されます。
健康保険法の体系は以下のようになっています。
- 総則
- 保険者
- 被保険者
- 保険給付
- 日雇特例被保険者に関する特例
- 保険事業及び福祉事業
- 費用の負担
- 健康保険組合連合会
- 不服申し立て
- 雑則
- 罰則
学習の中心は保険給付ですが、それ以外の内容もかなり多いため、この科目に時間をかけている受験生は少なくありません。
かと言って社会保険労務士(社労士)の試験で健康保険法を捨て科目にすることはできないため、辛抱強く全体を何度も繰り返して理解度を深めるのがポイントですよ。
社会保険労務士(社労士)試験 健康保険法 内容のポイント
ここでは、健康保険法の内容についてポイントを見ていきましょう。
目的
健康保険法第1条には、以下のように目的が記されています。
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
基本的理念
健康保険法の基本的理念について、第2条に記されています。
健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない。
健康保険事業の内容
健康保険においては、主たる業務(保険給付)の他、以下の事業が実施されています。
保険事業
特定健康診査、特定保健指導、健康教育、健康相談、健康診査など
福祉事業
療養や出産のために必要な費用に係る資金の貸付けなど
保険者
健康保険を管掌する保険者には、以下2種類あります。
健康保険組合
企業によって設立された組合です。
全国健康保険協会
政府によって設立された組合であり、健康保険組合に加入していない被用者が対象となります。
適用事業所
強制適用事業所と任意適用事業所の定義を正確に押さえる必要があります。
強制適用事業所
- 国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの
- 個人経営の事業所で、常時5人以上の従業員を使用し、法定業種に属するもの
任意適用事業所
強制適用事業所以外の事業所
被保険者
被保険者の種類は下記の4つに大別されます。
一般の被保険者
適用事業所で使用される一般の被保険者
任意継続被保険者
退職後に2年を限度として引き続き任意で資格を与えらえる被保険者
特例退職被保険者
特定健康保険組合の組合員が退職者になった場合に認められる被保険者
日雇特例被保険者
日雇労働者が対象となる被保険者
適用除外
船員保険の強制被保険者・臨時に使用される者・季節的業務に使用される者などが該当します。例外に注意です。
被扶養者
被扶養者の考え方は、以下のとおり大きく2つに分けられます。
「生計維持関係」であることが要件の被扶養者
直系尊属・配偶者・子・孫・兄弟姉妹が該当します。
「生計維持関係+同一世帯」であることが要件の被扶養者
その他の3親等以内の親族などが該当します。
標準報酬月額および標準賞与額
標準報酬月額とは、保険料を算定する基礎となるものであり、50等級に分かれています。
実際に被保険者に支払われる月額報酬を、この50の等級のいずれかに該当させ、その被保険者の標準報酬月額を決定します。
標準報酬月額の決定は、資格取得時決定・定時決定・随時決定・産前産後休業終了時改定・育児休業等終了時改定があります。
保険給付
被保険者に対する給付と被扶養者に対する給付
原則として、被保険者に対する給付に該当するものが、被扶養者にもあります。
ただし、例外として被保険者向けの「傷病手当金」と「出産手当金」は、被扶養者に該当する給付はありません。これらは所得補償を目的とするものであり、被保険者向けのみにあれば良いものだからです。
以下では、被保険者に対する給付を列挙します。
療養の給付
基本的な保険給付
入院時食事療養費/入院時生活療養費
食事療養や生活療養に対する給付
保険外併用療養費
保険外診療のうち、保険診療との併用が認められている「評価療養」を受けた場合の、その基礎的診療部分に対する給付
療養費
現物給付である療養の給付が行われなかった場合、自己負担した医療費に対して請求により支払われる給付
訪問看護療養費
在宅での継続的な療養を必要とする者が訪問看護を受けた場合に支給される給付
移送費
傷病手当金
被保険者に対する所得補償としての給付
高額療養費
窓口で支払った自己負担金額が自己負担上限額を超える場合に支払われる給付
高額介護合算療養費
健康保険と介護保険の自己負担額を合算したものが多大になる場合に支払われる給付
埋葬料
出産育児一時金/出産手当金
出産育児一時金は出産の費用を支給するものであり、出産手当金は産前産後休業期間中の所得補償のための給付です
保険料
一般保険料率は1,000分の30から1,000分の130までの範囲内で保険者が決定します。
また、一般保険料額は「標準報酬月額 × 一般保険料率」で計算します。
社会保険労務士(社労士)の試験科目!健康保険法の出題傾向は?
社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法は、択一式で10問、選択式で1問(空欄が5つ)が出題されます。
ここでは社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法の出題傾向を確認します。
健康保険法は膨大な出題範囲から幅広く出題されますので、参考書やテキストを使って健康保険法の全体像を把握し、満遍なく基本的な知識を習得していきます。
その上で、「総則」「被保険者」「標準報酬月額と保険料」「保険給付」「費用の負担」「健康保険組合」などのキーワードに重点を置き、学習していくのが社会保険労務士(社労士)の健康保険法の効果的な対策です。
健康保険法の基本問題を取りこぼすと社会保険労務士(社労士)試験の合否に影響を及ぼすため、基本的な理解を前提に出題されやすいポイントを頭に入れておきましょう。
健康保険法の基礎的な事項を理解していれば、試験で応用問題が出ても対応できるようになります。
社会保険労務士(社労士)の試験科目!健康保険法の勉強法はこれだ!
社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法は、幅広い範囲から満遍なく問題が出題されます。
狙われる項目の絞り込みも難しいため、社会保険労務士(社労士)の健康保険法は私たちの身近な内容でありながら受験生が苦労しやすい科目なのです。
しかし、正しい方法で勉強をしていれば、健康保険法の択一式試験で6点を確保するレベルまで押し上げることができます。
健康保険法に苦手意識がなくなれば社会保険労務士(社労士)の試験合格に一歩近付きますので、具体的な勉強法を要チェックです。
大原則の条文理解を丁寧に行う
健康保険法に限らず、法学の試験では条文を理解することが大原則です。
前述の「総則」「被保険者」「標準報酬月額と保険料」「保険給付」「費用の負担」「健康保険組合」などの論点を中心に諦めずに繰り返し勉強しましょう。
社会保険労務士(社労士)の健康保険法は難易度の高い出題が目立ちますが、下記のように条文を正しく理解するだけで対応できる問題も中にはあります。
- 健康保険法において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいうが、臨時に受けるもの及び3か月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。(正しい)
基本問題の失点は、社会保険労務士(社労士)の合否に影響を及ぼしますので気を付けてください。
過去問を活用して繰り返し解く
出題傾向の読みにくい社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法は、過去問を活用して繰り返し解く勉強法がおすすめです。
「参考書やテキストを読んで理解度を深める」⇒「過去問を実際に解いてみる」⇒「わからない部分を参考書に戻って確認する」という流れで学習すると、効率良く健康保険法を対策できます。
なぜ社会保険労務士(社労士)の過去問を中心とした勉強法が最適なのか、いくつかの理由を挙げてみました。
- 健康保険法の分野でどのような問題をどのような角度で出題されたのか理解できる
- 頻出する論点を把握し、そこを中心とした反復学習ができる
- 健康保険法の中で自分が苦手とする部分を把握できる
出題範囲の幅広い健康保険法でも、過去問と似たような問題が社会保険労務士(社労士)の本試験で出題されるケースは決して少なくありません。
過去問だけでの対策が不安な受験生は、予想問題集や模擬試験を使って類似問題を数多くこなす学習にも取り組んでみましょう。
法改正対策をぬかりなく行う
社会保険労務士(社労士)の試験科目の中でも、健康保険法は早いペースで法改正が行われるようになりました。
これは医療制度と医療保険制度がある時期から多数の問題を抱えていたため、それに対応する手段として法律が細かく変わっていると考えられますね。
健康保険法の改正内容は社会保険労務士(社労士)の試験で反映されやすいので、法改正対策も忘れてはいけません。
健康保険法以外の試験科目にも該当しますが、試験の前年度だけではなく過去3年間程度の改正項目は押さえておくべきです。
社会保険労務士(社労士)の試験勉強に取り組んでいる最中も、最新の法改正について意識を向けておいてください。
まとめ
社会保険労務士(社労士)の試験科目の健康保険法に関する内容、出題傾向や勉強法についておわかり頂けましたか?
出題範囲の広さゆえに、健康保険法に苦手意識を持つ受験生は少なくありません。
しかし、「条文の理解を丁寧に行う」「過去問を繰り返し解く」「法改正対策を行う」といったポイントを意識して勉強すれば、社会保険労務士(社労士)の本試験でも得点できます。
「自分には無理だ…」と最初から諦めずに、基本的な試験対策を積み上げて社会保険労務士(社労士)の合格を目指してみてください。