AI時代の社労士~AIに仕事が奪われるの?
これから社労士を目指す受験生で、「社労士という資格に将来性はあるの?」「社労士の仕事はAIに代替されてしまうのでは?」と不安を抱えている方は少なくありません。
現在では様々な業務においてAIの導入やIT化の検討が進んでいますが、これは社労士も決して例外ではないですね。
しかし、結論をいえば、社労士の仕事が無くなることはありません。それどころか、将来的には更に重要になってくるといえるでしょう。
この記事ではそんな社労士の将来性について、分かりやすく説明していきます。
AI時代の社労士 ~定型業務はAIに代替されて減っていく
前項では
「社労士の仕事は無くなることはない」
と書きましたが、これは「現在の社労士の仕事はすべて無くならない」という意味ではありません。
手続きの代行や帳簿作成といった日常的なルーティンワークは定型業務であり、やり方さえ覚えれば誰にでもできる単純な事務の仕事といえます。
そのような仕事はAIに仕事を奪われる可能性は十分にあるのです。
実際に、AIを活用した人事労務管理ソフトが広がりを見せて、政府も下記のように電子申請を推し進めています。
- 社会保険や労働保険手続に関するワンストップ化の実現
- 年末調整後にネットで税務署に提出できる仕組みの構築
- マイナポータルを活用した法人設立のワンストップ化
野村総合研究所と英オックスフォード大学の共同調査によると、AIによって30年頃には社労士業務の79%が自動化されるとのことでした。
勤怠集計や給与計算、社会保険や労働保険の入力といった判断業務の一部は、人工知能が代わりに行うことができます。
つまり、社労士の定型業務は緩やかに確実に減少していくと考えた方が良いでしょう。
AI時代、社労士に期待される業務とは?
それでは、AI時代において、社労士が生き残るためには、どのような業務を行えばよいのでしょうか?
以下では、独占業務を中心とする社労士の現状業務を洗い出したうえで、「AIに奪われる業務」「AIに奪われることのない、将来性のある社労士業務」の仕分けをしていきましょう。
社労士の独占業務とは?
社労士(社会保険労務士)とは、社会保険や労働関連の法律の専門家です。
税理士や弁護士、行政書士などの専門資格(国家資格)を持つ方と同じように、社労士にも独占業務があります。
独占業務とは、その資格を有する者でないと携わることが禁じられている業務のことですね。
社労士の独占業務は「1号業務(手続き代行)」と「2号業務(帳簿作成)」の2つに大きくわけられますので、それぞれの実務を詳しく見ていきましょう。
1号業務
社労士の独占業務の1号業務は、労働・社会保険関連法に基づく申請書の作成や手続きに関わる代理です。
クライアントからの依頼を受けて、労働及び社会保険に関する法令の申請書を作成したり、提出に関する手続きを代わりに行ったりします。
具体的に社労士ができる申請や届出の例をいくつか挙げてみました。
- 健康保険・厚生年金保険の算定基礎届け/月額変更届け
- 労働保険の年度更新手続き
- 健康保険の給付申請手続き
- 死傷病報告等の報告書の作成と手続き
- 解雇予定除外認定申請手続き
- 審査請求・異議申立・再審査請求などの申請手続き
- 各種助成金申請手続き
- 労働者派遣事業などの許可申請手続き
- 時間外労働・休日労働に関する協定届
- 就業規則及び各種諸規程の届出
これらの労働社会保険関連の手続きを生業として報酬をもらえるのは社労士だけです。
社労士以外の人物が報酬をもらって1号業務の独占業務を行うと、罰則を受けますので注意しないといけません。
2号業務
社労士の2号業務は、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成です。
労働保険関連の帳簿には法定三帳簿と呼ばれる労働者名簿・賃金台帳・出勤簿があります。
法定三帳簿とは? | |
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労働者名簿 | 各事業場ごとに労働者の氏名や生年月日、その他厚生労働省令で定める事項を記入する必要あり |
賃金台帳 | 賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額を賃金支払いの都度遅延なく記入する必要あり |
出勤簿 | 社員の労働日数や労働時間数、時間外労働を把握するための帳簿 |
これらの帳簿の作成業務は、社労士しか行うことができない独占業務ですよ。
労働保険関連の帳簿書類は給与計算や就業規則も含まれますので、企業の労務管理を考えるに当たって欠かせない書類と言えます。
その大事な書類の作成を社労士は任されているわけです。
※社労士の独占業務(1号業務・2号業務)について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
3号業務(非独占業務)
社労士の3号業務は、人事労務に関する相談や指導、アドバイスなどの業務を指します。
3号業務を一言で表すと、労務関係のコンサルティング業務です。
一口に労務コンサルティングと言っても、「採用業務」「人材育成」「人事制度改革」「働き方改革」「労働基準監督署調査対策」など様々!
労働関係のアドバイザーとして、社労士は企業と労働者双方の立場から求められる存在です。
しかし、社労士の3号業務は1号業務や2号業務とは違って独占業務ではありません。
社労士以外にも、中小企業診断士などその他のコンサルタントが労務関係のコンサルティング業務を担うことはできます。
※社労士の3号業務(コンサルティング業務)について詳しくは、下記も参考にしてみてください。
AI時代の社労士~社労士のコンサルティング(3号業務)のニーズは増える
「AI時代が来るから社労士の資格を取っても意味がない」とイメージしている方はいます。
確かに社労士の独占業務の1号業務・2号業務の日常的な部分は減っていくと予想されていますが、コンサルティング(3号業務)のニーズは増える傾向あり!
コンサルティングでは人とより深く関わる業務ですので、AI(人工知能)では代替できません。
人間力が物を言う業務は、たとえAIが台頭しても取って代わられることのない領域です。
中でも、近年では新型コロナウイルスの影響により、助成金の申請に関するコンサルティング業務のニーズが増えています。
厚生労働省が事業主に提供する助成金は次の2つが代表的です。
- 雇用調整助成金:コロナウイルス感染症で休業した事業者に対して支払われる助成金
- テレワーク助成金:テレワークを導入した企業に対して支払われる助成金
単純に助成金の代理申請を行うだけではなく、申請をためらう事業者に説明したり情報を提供したりといった業務はAIではできません。
これからの社労士の業務は、コンサルティング(3号業務)のウェイトが大きくなりやすいと心得ておきましょう。
コンサルティングに強い社労士はAIに勝てる!
前述のとおり、AIの導入やIT化は社労士にとって脅威ですが、コンサルティングに強い社労士はAIに勝てます。
社労士に関して言えば、働き方改革に伴う法改正や新型コロナウイルスの影響で労務管理の手法は日々複雑化しています。
ハラスメント問題や労災となるような精神疾患問題、新人対策のための適材適所の人材配置など社労士を取り巻く環境も激しく変化しました。
新たに発生した問題に対して対処するのはAIの不得意分野で、新しい時代の問題には過去の事例が少ないのが理由です。
つまり、労務上で引き起こされる問題について丁寧に相談に乗ったり解決策を提示したりできる社労士が今後求められます。
以下では、経営者やクライアントから頼りにされる社労士になるにはどうすれば良いのか具体例を挙げてみました。
- 単なる書類作成や提出代行だけではなく、依頼者が抱えている問題の課題解決の提案ができる
- 経営者に寄り添って相談に乗ってコミュニケーションが取れる
- 新たな法律にその都度対応できる柔軟な社労士
- 1号業務や2号業務に縛られることなく、専門家としての価値を上げる
「この社労士さんになら悩みを相談できる」「この先生なら解決策を一緒に考えてくれる」といった存在にならないと、コンサルティング業務は成り立ちません。
確かな人間力を持つ社労士になることができれば、顧問契約を結ぶことも十分にできます。
社労士事務所に勤めている人も企業の総務部門で活躍している人も、AIに勝てるコンサルティングに強い社労士を目指してみてください。
まとめ
社労士の独占業務の1号業務や2号業務はAIに取って代わられる可能性が高いため、「将来性のない資格なのでは?」と噂されています。
しかし、AI時代においても人と人との繋がりが大事なコンサルティング(3号業務)のニーズは増えるでしょう。
AIにも得意分野と不得意分野がありますので、ただ書類申請や手続き代行の業務をこなすだけではなく人間力の高い社労士を目指すべきです。